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春やあらぬ月は見しよの空ながら
馴れし昔のかげぞ恋しき

歌の意味
春は昔の春ではないのだろうか。月はかつて見た夜の空のままなのに、親しんだ昔の面影が恋しい。
鑑賞
恋歌 494

詞書「寄月忍恋」
 月は昔見た夜の空のままなのに、親しくしていた昔の人の面影はなく、それが恋しいと詠んだ歌である。在原業平の「月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして」を踏まえている。ここから題詠の恋の歌が続く。
 類従本では題を「月によせてしのぶる恋」とする。

 初句「春やあらぬ」は、春は昔の春ではないのかの意で、「や」は疑問である。本歌の「月やあらぬ春や昔の春ならぬ」を踏まえ、ここで句切れとなる。
 二句「月は見しよの」は、月はかつて見た夜のの意で、「よ」に世と夜とを掛けている。
 三句「空ながら」は、空のままでありながらの意で、逆接である。
 四句「なれし昔の」は、親しんだ昔のの意である。
 結句「かげぞ恋しき」の「ぞ」は係助詞で、「恋しき」と連体形で結ぶ。「かげ」は月の光と人の面影とを重ねる。名所の恋の一連から、月に寄せる題詠へと移っている。

よ:世と夜を掛ける
かげ:月の光、面影
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
いかにせむ命も知らず松山の 上越す波に朽ちぬ思ひを
次の歌
思ひきやありし昔の月影を 今は雲居のよそに見むとは