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野辺分けぬ袖だに露は置くものを
ただこの頃の秋の夕暮

歌の意味
野辺を分けて行かない袖にさえ露は置くものなのに、ましてこの頃の旅の秋の夕暮れはどれほどだろうか。
鑑賞
雑歌 572

詞書は前の歌に続き「羇中夕露」
 野を分けて行かない人の袖にさえ涙の露は置くものなのに、まして野を分けて旅するこの頃の秋の夕暮れは、言うまでもなく袖が濡れると詠んだ歌である。秋の夕暮れのもの悲しさを、旅の露によっていっそう深めている。
 類従本では旅の部に収められている。賀茂真淵は「ただこの頃」は後の時代の言い方であると評している。なお底本の表示は初句に判読しにくい箇所があり、類従本、定家所伝本の読みに従って「野辺わけぬ」とする。

 初句「野辺わけぬ」は、野辺を分けて行かないの意である。
 二句「袖だに露は」は、袖にさえ露はの意で、「だに」は軽いものを挙げて重いものを推量させる副助詞である。
 三句「おくものを」は、置くものなのにの意で、「ものを」は逆接である。
 四句「ただこのごろの」は、まさにこの頃のの意である。
 結句「秋の夕暮」は体言止めで、前歌と同じ結句である。前歌が実際に露に濡れる旅人を詠んだのに対し、本歌は野を分けない者との比較によって旅の露の深さを示している。

わく:草などを押し分けて進む
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
露しげみならはぬ野辺の狩衣 頃しも悲し秋の夕暮
次の歌
旅衣うら悲しかる夕暮の 裾野の露に秋風ぞ吹く