古典和歌stream

箱根路をわが越え来れば伊豆の海や
沖の小島に波の寄る見ゆ

歌の意味
箱根の山道を私が越えてくると、伊豆の海が開け、沖の小島に波が寄せているのが見える。
鑑賞
雑歌 591

詞書「箱根の山をうち出でて見れば波の寄る小島あり、供の者に此の浦の名は知るやと尋ねしかば、伊豆の海となむ申すと答へ侍りしを聞きて」
 箱根の山道を越えて視界が開けたとき、眼下に広がる伊豆の海と、沖の小島に寄せる波を見て詠んだ歌である。供の者に浦の名を尋ね、伊豆の海と答えられたという詞書の経緯から、初めて見る雄大な景色への感動がうかがえる。二所詣の途上で詠まれたと考えられ、実朝の代表歌の一つである。
 勅撰集の『続後撰和歌集』に入集している。賀茂真淵はこの歌に評価の印を付け、どうしてここまで詠めたのかと常に感心されており、万葉集の「逢坂をうち出でて見れば近江の海白木綿花に波立ちわたる」をもとにしながら、それよりもまさっていると評している。

 初句「箱根路を」は、箱根の山道をの意である。
 二句「わがこえくれば」は、私が越えてくるとの意で、「ば」は順接の確定条件である。本巻の第五百八十三首の越えかねた山道に対し、本歌は越えきった眺望を詠んでいる。
 三句「伊豆の海や」は、伊豆の海よの意で、「や」は詠嘆の間投助詞である。詞書の供の者の答えをそのまま句に取り入れている。
 四句「おきの小島に」は、沖の小さな島にの意で、初島を指すとされる。
 結句「波の寄るみゆ」は、波が寄せているのが見えるの意である。遠景の小島に寄せる白波を、目に見えるままに言い切っている。

はこねぢ:箱根の山を越える道
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
空や海海や空ともえぞ分かぬ 霞も波も立ち満ちにつつ
次の歌
春雨にうちそぼちつつあしひきの 山路行くらむ山人や誰