うつたへに思ふばかりは言はねども
便りにつけて尋ねぬばかりぞ
- 歌の意味
-
ひたすらに思っているほどのことは言わないけれども、便りにかこつけて安否を尋ねただけのことである。
- 鑑賞
-
雑歌 599
詞書は前の歌に続き「ある人都の方へ上り侍りしに便りにつけて詠みて遣はす」
心の底から思っているほどのことは口に出さないが、便りのついでに様子を尋ねただけだと、思いの深さをあえて控えめに伝えた歌である。前の歌々で強く思いを述べたのを、さりげなく打ち消すような照れ隠しの趣がある。
底本の初句は「うたへに」、類従本は「打絶えて」、定家所伝本は別の形とするが、賀茂真淵の説によって「うつたへに」と改められており、ここではそれに従う。
初句「うつたへに」は、ひたすらに、むやみにの意である。
二句「思ふばかりは」は、思っているほどのことはの意である。
三句「いはねども」は、言わないけれどもの意で、逆接である。
四句「便につけて」は、便りにかこつけての意である。
結句「たづねぬばかりぞ」は、尋ねただけであるの意で、「ぬ」は完了、「ぞ」は強意である。八音の字余りである。三句の「いはねども」と結句の「ばかりぞ」が呼応し、二句と結句に「ばかり」を重ねている。
うつたへに:ひたすらに、むやみに
たづぬ:安否などを問う
- 作者
-
源実朝
- 出典
-
金槐和歌集
- 前の歌
-
都より吹き来む風の君ならば 忘るなとだに言はましものを
- 次の歌
-
岩根踏み幾重の峰を越えぬとも 思ひも出でば心隔つな