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奥山の苔の衣に置く露は
涙の雨の雫なりけり

歌の意味
奥山で修行する人の苔の衣に置く露は、涙の雨のしずくであったのだ。
鑑賞
雑歌 610

詞書「法眼定忍に逢ひて侍りし時大峰山の物語などしけるを聞きて後に詠める」
 法眼定忍に会ったとき、大峰山での修行の話などを聞いて、後に詠んだ歌である。奥山で修行する行者の粗末な衣に置く露は、ありがたさと厳しさに流す涙の雨のしずくであったのだと、修行者の苦行に心を寄せている。賀茂真淵はこの歌に評価の印を付けている。
 類従本では神祇の部に収め、詞書を「物語などせしを聞きて後よめる」とする。定忍は熊野や大峰で修行した修験者と推察されるが、詳しいことは知られていない。なお底本の表示は詞書の一部が判読しにくい。

 初句「おく山の」は、奥深い山のの意である。四句の「おく露」と「おく」の音を重ねている。
 二句「苔のころもに」は、僧や修験者の粗末な衣にの意である。
 三句「おく露は」は、置いている露はの意である。
 四句「なみだの雨の」は、涙の雨のの意で、涙を雨にたとえている。
 結句「しづくなりけり」は、しずくであったのだの意で、「けり」は気づきの詠嘆である。

こけのころも:僧や隠者の粗末な衣
ほふげん:僧の位の一つ
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
われゆゑに濡るるにはあらじ唐衣 山路の苔の露にぞあらまし
次の歌
鈴懸の苔織衣の古衣 おくもこのもときつつなれけむ