われ幾そ見し世の事を思ひ出でつ
明くるほどなき夜の寝覚めに
- 歌の意味
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私はいくつもの見てきた世の出来事を思い出した。明けるまでもない短い夜の寝覚めに。
- 鑑賞
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雑歌 679
詞書「相州の土屋といふ所に年九十に余れる朽ち法師あり、おのづから来たり、昔語りなどせしついでに、身の立ち居に堪へずなむなりぬる事を泣く泣く申して出でぬ。時に老といふ事を人々に仰せて仕うまつらせしついでに詠み侍りし」
相模国の土屋という所に九十歳を超える老いた法師がいて、ふと訪ねてきて昔語りなどをしたついでに、身の立ち居もままならなくなったことを泣く泣く語って帰っていった。そのとき人々に「老」という題で歌を詠ませたついでに、実朝自らも詠んだ歌である。若い実朝が老法師の身になって、明けるまでもない短い夜の寝覚めに、これまで見てきた世のさまざまな出来事を思い出したと詠んでいる。
定家所伝本では三句を「おもひいでつ」とする。類従本では詞書の末尾を「よみ侍る歌」とする。賀茂真淵は詞書の「相州」について、某州と書く書き方はこの国にはなく、「相模の国」とあるべきだと評している。
初句「われいくそ」は、私はいくつもの意である。老法師の身になっての五首の一連の初めである。
二句「見し世の事を」は、見てきた世の出来事をの意である。
三句「思ひ出でつ」は、思い出したの意で、「つ」は完了である。三句切れである。
四句「あくるほどなき」は、明けるまでもないの意で、老人の眠りが浅く、夜中に何度も目覚めることをいう。
結句「よるの寢覺に」は、夜の寝覚めにの意で、倒置となっている。
いくそ:いくつ、どれほど多く
くちほふし:年老いて衰えた法師
ねざめ:夜中に目が覚めること
- 作者
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源実朝
- 出典
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金槐和歌集
- 前の歌
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ひむがしの国にわが居れば朝日さす 藐姑射の山の陰となりにき
- 次の歌
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思ひ出でて夜はすがらに音をぞ泣く ありし昔の世々の古事