なかなかに老いは惚れても忘れなで
などか昔をいと偲ぶらむ
- 歌の意味
-
いっそのこと老いてぼけて忘れてしまえばよいのに、忘れもしないで、どうして昔をこれほど偲ぶのだろうか。
- 鑑賞
-
雑歌 681
詞書は前の歌に続き「相州の土屋といふ所に年九十に余れる朽ち法師あり、おのづから来たり、昔語りなどせしついでに、身の立ち居に堪へずなむなりぬる事を泣く泣く申して出でぬ。時に老といふ事を人々に仰せて仕うまつらせしついでに詠み侍りし」
いっそ老いてぼけてしまえば昔のことなど忘れられるのに、忘れることもできず、どうしてこれほど昔を偲ぶのだろうかと、老法師の身になって詠んだ歌である。前の二首の思い出す苦しさを受け、いっそ忘れたいという老いの嘆きを詠んでいる。
貞享本は三句、四句を「わすれなにと昔を」とするが、傍注と類従本、定家所伝本によって改められており、ここではそれに従う。
初句「中々に」は、いっそのことの意である。
二句「老はほれても」は、老いてぼけてもの意である。
三句「忘れなで」は、忘れることもしないでの意で、「なで」は打消の接続である。
四句「などか昔を」は、どうして昔をの意で、「か」は疑問の係助詞で、結句の「らむ」と連体形で結ぶ。前の二首の「思ひ出」を受けている。
結句「いとしのぶらむ」は、これほど偲ぶのだろうかの意で、「らむ」は現在推量である。
ほる:ぼける、ほうける
しのぶ:昔を懐かしく思い出す
- 作者
-
源実朝
- 出典
-
金槐和歌集
- 前の歌
-
思ひ出でて夜はすがらに音をぞ泣く ありし昔の世々の古事
- 次の歌
-
道遠し腰は二重にかがまれり 杖にすがりてここまでも来る