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おのづから我を尋ぬる人もあらば
野中の松よ見きと語るな

歌の意味
たまたま私を尋ねる人があったとしても、野中の松よ、私を見たと語らないでおくれ。
鑑賞
雑歌 690

詞書「屏風の絵に野中に松三本生ひたる所を衣被ける女一人通りたり」
 屏風に描かれた、野中に三本の松が立ち、衣をかずいた女がひとり通り過ぎてゆく絵を見て、その女の身になって詠んだ歌である。人目を忍んで道を行く女が、もし私を尋ねる人があっても、野中の松よ、見たと言わないでおくれと松に口止めしている。絵の中の人物の心を想像して物語を作り出した一首である。賀茂真淵はこの歌に評価の印を付けている。
 類従本では詞書の末尾を「衣かぶれる女とほりたる」とする。

 初句「おのづから」は、たまたまの意である。
 二句「われを尋ぬる」は、私を尋ねるの意である。
 三句「人もあらば」は、人があったならばの意で、六音の字余りである。
 四句「野中の松よ」は、野中の松よの意で、松に呼びかけている。前の二首の松を受け、屏風の絵の野中の松を詠んでいる。
 結句「みきと語るな」は、見たと語るなの意で、「な」は禁止である。

きぬかづく:衣を頭からかぶって顔を隠す
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
年経れば老い倒れて朽ちぬべき 身は住の江の松ならなくに
次の歌
磯の松幾久さにかなりぬらむ いたく木高き風の音かな