梓弓磯辺に立てる一つ松
あなつれづれげ友なしにして
- 歌の意味
-
磯辺に立っている一本の松よ、ああ、なんとも所在なさそうだ。友もなしに。
- 鑑賞
-
雑歌 692
詞書「物詣でし侍りし時磯のほとりに松一本ありしを見て詠める」
寺社に参詣したとき、磯のほとりに一本だけ立っている松を見て詠んだ歌である。友もなくひとりで立つ松を、いかにも所在なく寂しそうだと人のように見ている。孤独な松に、自らの心を重ねているとも読める。
賀茂真淵は「あなつれづれげ」は万葉集の「あなたづたづし」を言い直したものであるが、よくないと評している。
初句「梓弓」は「いそ」にかかる枕詞である。
二句「いそべにたてる」は、磯辺に立っているの意である。前歌の「磯の松」を受けている。
三句「ひとつ松」は、一本だけ立っている松の意で、三句切れである。
四句「あなつれづれげ」は、ああ、所在なさそうだの意で、「あな」は感動詞である。
結句「友なしにして」は、友もなくての意で、倒置によって寂しさの理由を後に示している。本巻の第五百七十六首の「友なき鹿」と同じく、友のない孤独を詠んでいる。
あづさゆみ:いそ、にかかる枕詞
つれづれげ:所在なく寂しそうなさま
- 作者
-
源実朝
- 出典
-
金槐和歌集
- 前の歌
-
磯の松幾久さにかなりぬらむ いたく木高き風の音かな
- 次の歌
-
大海の磯もとどろに寄する波 破れて砕けて裂けて散るかも