紅の千入のまふり山の端に
日の入る時の空にぞありける
- 歌の意味
-
紅の色に幾度も染め重ねたような色は、山の端に日が沈む時の空であったのだ。
- 鑑賞
-
雑歌 697
詞書「山の端に日の入るを見て詠み侍りける」
山の端に日が沈むのを見て詠んだ歌である。紅を何度も染め重ねて振り出したような深い色は、まさに日の入る時の空の色であったと詠み、夕焼け空の鮮やかな紅を描いている。
類従本では詞書の末尾を「見てよめる」とする。貞享本の二句「ちしほのまり」は誤りであろうとされる。
初句「くれなゐの」は、紅色のの意である。
二句「ちしほのまふり」は、何度も染め重ねて振り出した色の意で、「ちしほ」は幾度も染め汁に浸すこと、「まふり」はよく振り出して染めることをいう。
三句「山のはに」は、山の稜線にの意である。
四句「日の入る時の」は、日が沈む時のの意である。
結句「空にぞありける」は、空であったのだの意で、「ぞ」は係助詞で「ける」と連体形で結ぶ。前歌の藻塩火の赤い火から、夕焼けの紅の空へと移っている。
ちしほ:何度も染め汁に浸して濃く染めること、千入
やまのは:山の稜線、空と接する山の端
- 作者
-
源実朝
- 出典
-
金槐和歌集
- 前の歌
-
いつもかく寂しきものか葦の屋に 焚きすさびたる海人の藻塩火
- 次の歌
-
浜辺なる前の川瀬を行く水の 早くも今日の暮れにけるかな