古典和歌stream

ぬばたまの闇の暗きに天雲の
八重雲隠れ雁ぞ鳴くなる

歌の意味
真っ暗な闇の中に、空の雲の幾重にも重なる雲に隠れて、雁が鳴いているようだ。
鑑賞
雑歌 702

詞書は底本の表示から判読できない
 真っ暗な闇夜に、幾重にも重なる雲に隠れて姿の見えない雁が鳴いていると詠んだ歌である。姿は見えず声だけが聞こえることで、闇の深さと雁の声の寂しさとがいっそう際立っている。前歌の無残な姿の雁に対し、本歌は声だけの雁を詠んでいる。賀茂真淵はこの歌に評価の印を付けている。
 定家所伝本では初句を「うばたまや」とする。貞享本の結句「鳴なり」は誤りであろうとされる。

 初句「ぬば玉の」は「闇」にかかる枕詞である。
 二句「やみのくらきに」は、闇の暗い中にの意である。
 三句「あま雲の」は、空の雲のの意である。
 四句「やへ雲がくれ」は、幾重にも重なる雲に隠れての意である。前歌の二句「雲井のよそに」と同じく、雲の彼方の雁を詠んでいる。
 結句「雁ぞ鳴くなる」は、雁が鳴いているようだの意で、「なる」は音による推定、「ぞ」の結びである。前歌の目に見える雁に対し、耳にだけ聞こえる雁を詠み、二首が対をなしている。

ぬばたまの:闇や夜、黒にかかる枕詞
やへぐも:幾重にも重なった雲
作者
源実朝
出典
金槐和歌集
前の歌
あはれなり雲居のよそに行く雁も かかる姿になりぬと思へば
次の歌
沢辺より雲居に通ふ葦鶴も 憂きことあれや音のみ鳴くらむ