春霞たちかへるべき空ぞなき
花のにほひに心とまりて
- 歌の意味
-
春霞が立つように、ここを立ち帰る気にはとてもなれない。花の美しさに心が引きとめられて。
- 鑑賞
-
巻第一 春歌 35
花の美しさに心を奪われて、帰る気持ちになれないと詠んだ歌である。上の句で立ち去りがたい思いを述べ、下の句でその理由を倒置して示している。白河の花見にかかわるとみられる一連の中に置かれ、花見を楽しむ院の満ち足りた心を伝えている。
作者の「白河院」は第七十二代の白河天皇である。後三条天皇の第一皇子で、譲位の後も上皇として院政を行い、源俊頼に本集の撰進を命じた。
初句「春霞」は霞が「立つ」ことから、次の「たちかへる」を導いている。
二句「たちかへるべき」は霞が立つ意と、その場を立ち帰る意とを掛けた掛詞である。
三句「空ぞなき」の「空」は気持ち、心持ちの意で、霞の縁で「空」の語を用いている。係助詞「ぞ」と連体形「なき」の係り結びで、ここで句切れとなる三句切れである。
四句「花のにほひに」の「にほひ」は花の色の美しさである。
結句「心とまりて」は心が引きとめられての意で、上の句の理由を後から示す倒置となっている。
たちかへる:霞が立つ意と、その場を立ち帰る意を掛ける
そら:心持ち、気持ち
- 作者
-
白河院
- 出典
-
金葉和歌集
- 前の歌
-
年ごとに咲きそふ宿の桜花 なほ行く末の春ぞゆかしき
- 次の歌
-
白雲と遠の高嶺に見えつるは 心まどはす桜なりけり