松風の音せざりせば藤波を
何にかかれる花と知らまし
- 歌の意味
-
松風の音がしなかったならば、藤の花房を、何に掛かっている花だと知ることができただろうか。
- 鑑賞
-
巻第一 春歌 84
藤の花に覆われて松の姿が見えないほどであるが、松風の音によって藤が松に掛かっていることを知ったと詠む歌である。見えないものを音で知る趣向で、本巻の第二十七首の帰雁を声で知る歌とも通じている。
作者の「良暹」は平安時代中期の天台宗の僧である。祇園の別当を務めたと伝えられ、後拾遺和歌集以下の勅撰集に歌が採られ、小倉百人一首にも歌が入っている。
初句「松風の」の「松風」は松の梢を吹く風である。
二句「音せざりせば」は音がしなかったならばの意の反実仮想で、結句の「まし」と呼応する。
三句「藤波を」の「藤波」は藤の花房で、本巻の第八十一首の結句と同じ語である。
四句「何にかかれる」は何に掛かっているの意で、藤の掛かる松が花に隠れて見えないことを示す。
結句「花と知らまし」は花だと知ることができただろうかの意で、知り得なかったことを反実仮想で表している。
まつかぜ:松の梢を吹く風
ふぢなみ:藤の花房が波のように揺れるさま、また藤の花
- 作者
-
良暹
- 出典
-
金葉和歌集
- 前の歌
-
来る人もなきわが宿の藤の花 たれをまつとて咲きかかるらむ
- 次の歌
-
池にひつ松のはひ枝に紫の 波織りかくる藤咲きにけり