春は惜し人はこよひと頼むれば
思ひわづらふ今日の暮かな
- 歌の意味
-
春は惜しい。一方で、恋しい人は今夜こそ逢おうと約束してくれているので、思い悩む今日の暮れであることよ。
- 鑑賞
-
巻第一 春歌 91
暮春の一日の夕暮れに、過ぎてゆく春は惜しいが、恋人とは今夜逢う約束があるので早く日が暮れてほしくもあると、相反する思いに揺れる心を詠んだ歌である。惜春の情と恋の期待とを一首の中に対置した趣向である。
初句「春は惜し」は春は惜しいの意で、初句切れである。
二句「人はこよひと」は恋しい人は今夜にとの意で、初句の「春は」と対をなしている。
三句「頼むれば」の「頼む」はここでは下二段活用で、頼みに思わせる、約束して期待させるの意である。
四句「思ひわづらふ」は思い悩むの意である。
結句「今日の暮かな」は今日の夕暮れであることよの意で、春を惜しむ心と逢瀬を待つ心とが交差する時刻を示している。
たのむ:頼みに思わせる、約束して期待させる
おもひわづらふ:あれこれと思い悩む
- 出典
-
金葉和歌集
- 前の歌
-
残りなく暮れゆく春を惜しむとて 心をさへもつくしつるかな
- 次の歌
-
帰る春卯月の忌にさしこめて しばしみあれのほどまでも見む