我のみぞ急ぎたたれぬ夏衣
ひとへに春を惜しむ身なれば
- 歌の意味
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私だけが、夏衣を急いで裁つ気になれないでいる。ひたすらに春を惜しむ身であるので。
- 鑑賞
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巻第二 夏歌 94
夏の初めの衣替えの時期になっても、自分だけは急いで夏衣を裁って着る気になれない、ひたすら過ぎた春を惜しんでいるのだから、と詠む歌である。季節が改まっても去った春に心を残す思いを、夏衣にちなむ語で巧みに言い表している。
本歌は巻第二夏歌の巻頭歌であり、巻第一の巻末の第九十三首が春との別れを悲しんで閉じたのを受け、なお春を惜しむ心から夏の巻を始めている。巻末の第百五十五首が秋の訪れを予感して巻を閉じるのと呼応し、季節の境目の心が巻の両端に置かれている。
初句「我のみぞ」は私だけがの意で、係助詞「ぞ」が二句の「たたれぬ」と係り結びをなす。世の人が衣替えをするなかで自分だけはという思いを強めている。
二句「急ぎたたれぬ」の「たつ」は衣を裁つ意と、夏が立つ意とを掛けた掛詞である。「れ」は自発の助動詞「る」、「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形で、急いで裁つ気になれないの意となる。ここで句切れとなる二句切れの歌で、以下は理由を述べる倒置である。
三句「夏衣」は夏に着る薄い衣で、陰暦四月一日の衣替えを思わせる。本巻の第百四十四首の初句にも「夏衣」が置かれている。
四句「ひとへに春を」の「ひとへ」は、ひたすらにの意の「偏に」と、裏地のない夏の衣である「単衣」とを掛けた掛詞である。「たつ」「ひとへ」はいずれも衣の縁語となっている。
結句「惜しむ身なれば」は惜しむ身であるのでの意で、二句の「たたれぬ」の理由を示す。
たつ:衣を裁つ意と、夏が立つ(始まる)意を掛ける
ひとへ:ひたすらにの意の「偏に」と、裏地のない夏の衣「単衣」を掛ける
なつごろも:夏に着る薄い衣
- 出典
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思ひやれめぐりあふべき春だにも 立ち別るるは悲しかりけり
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