稲葉吹く風の音せぬ宿ならば
何につけてか秋を知らまし
- 歌の意味
-
稲の葉を吹く風の音がしない家であったならば、何によって秋を知ることができただろうか。
- 鑑賞
-
巻第三 秋歌 171
稲の葉を吹き渡る風の音が聞こえなかったなら、いったい何によって秋の訪れを知ることができただろうか、と詠む歌である。秋の訪れを知らせるのは稲葉を吹く風の音だという、田園の家の秋の実感を詠んでいる。
本巻の第百七十三首も門田の稲葉を訪れる秋風を詠み、稲葉の風によって秋を知る点で響き合っている。
本巻の第百六十八首から第百七十三首までは、女郎花や稲葉を吹く風、山里の景などによって秋の訪れを知る歌が続く。
初句「稲葉吹く」は稲の葉を吹くの意で、実りの季節の田の景を示している。
二句「風の音せぬ」は風の音がしないの意で、「ぬ」は打消の「ず」の連体形である。
三句「宿ならば」は家であったならばの意の仮定で、結句の「まし」と呼応している。
四句「何につけてか」は何によってかの意で、係助詞「か」が結句の「まし」と係り結びをなす。
結句「秋を知らまし」の「まし」は反実仮想の助動詞で、秋を知ることができただろうかの意となる。
いなば:稲の葉
- 出典
-
金葉和歌集
- 前の歌
-
おのづから秋は来にけり山里の 葛はひかかる槙の伏屋に
- 次の歌
-
山深み訪ふ人もなき宿なれど 外面の小田に秋は来にけり