思ふことありあけ方の月影に
あはれを添ふるさを鹿の声
- 歌の意味
-
思い悩むことがあって起きている有明方の月の光の中で、いっそうあわれを添える牡鹿の声であることよ。
- 鑑賞
-
巻第三 秋歌 223
もの思いがあって眠れずにいる明け方、有明の月の光の中に、牡鹿の声がいっそうあわれを添える、と詠む歌である。もの思う心、有明の月、鹿の声と、秋のあわれを重ねて描いている。
本巻の第二百二十二首から第二百二十六首までは鹿の歌が続き、妻を恋うて鳴く鹿の声に、旅や独り寝のわびしさなど、さまざまな心が寄せられていく。
初句「思ふこと」は思い悩むことの意で、二句の「あり」へとつながっている。
二句「ありあけ方の」の「あり」は、思うことが「あり」の意と、「有明」とを掛けた掛詞である。本巻の第二百十三首にも同じ掛詞が見られる。
三句「月影に」は月の光の中にの意である。
四句「あはれを添ふる」は、しみじみとした情趣をいっそう加えるの意である。
結句「さを鹿の声」は牡鹿の声で、体言止めで結んでいる。
ありあけがた:「有り」の意と、夜明けに月が残る「有明」を掛けた語で、明け方の意
さをしか:牡鹿
- 出典
-
金葉和歌集
- 前の歌
-
妻恋ふる鹿ぞ鳴くなるひとり寝の とこの山風身にやしむらむ
- 次の歌
-
夜半に鳴く声に心ぞあくがるる 我が身は鹿の妻ならねども