恋ひわたる人に見せばや松の葉の
下紅葉する天の橋立
- 歌の意味
-
恋い続けているあの人に見せたいものだ。常緑の松の葉さえも下葉が紅葉している、この天の橋立を。
- 鑑賞
-
巻第八 恋歌下 422
長く恋い続けているあの人に、色を変えないはずの松の葉までもが下葉から色づいている天の橋立の景色を見せたい、と詠む歌である。松が人知れず下紅葉するさまに、表には出さずに心の内で深まっていく恋を重ねている。
「下紅葉」は本巻の第四百七十二首にも「岩瀬の森の下紅葉」と詠まれており、人知れず色づく思いを表す点で通じている。
初句「恋ひわたる」は、恋い続けるの意で、「わたる」は時間的な継続を表す。結句の「橋立」の橋を渡る意を響かせ、縁語となっている。
二句「人に見せばや」は、あの人に見せたいの意で、願望の終助詞「ばや」を用いる。ここで句切れとなる二句切れの歌で、倒置により結句の「天の橋立」へと続いていく。
三句「松の葉の」は、常緑で色を変えない松の葉のの意である。
四句「下紅葉する」は、下葉が紅葉するの意で、変わらぬはずの松の下葉が色づくことに、心の内で人知れず深まる恋を重ねている。本巻の第四百七十二首の三句「下紅葉」と同じ語である。
結句「天の橋立」は丹後の歌枕で、松林の続く砂州として名高い。体言止めで歌を結んでいる。
こひわたる:恋い続ける
したもみぢ:木の下葉が紅葉すること
あまのはしだて:丹後の歌枕。松の茂る砂州
- 出典
-
金葉和歌集
- 前の歌
-
かすめては思ふ心を知るやとて 春の空にもまかせつるかな
- 次の歌
-
しののめの明けゆく空も帰るには 涙にくるるものにぞありける