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する墨も落つる涙にあらはれて
恋しとだにもえこそ書かれね

歌の意味
すった墨も、落ちる涙に洗い流されてしまい、せめて恋しいとだけでも書くことができない。
鑑賞
巻第八 恋歌下 443

 手紙を書こうとすった墨も、こぼれ落ちる涙に洗われてしまい、せめて恋しいという一言さえ書くことができない、と詠む歌である。涙のために文字さえ書けないさまに、思いのあふれる恋の苦しさを表している。
 次歌の第四百四十四首が心は抑えられても涙は忍べないと詠むのと並び、涙が思いを隠しきれないさまを詠む歌が続いている。

 初句「する墨も」は、硯ですった墨もの意である。
 二句「落つる涙に」は、こぼれ落ちる涙にの意である。
 三句「あらはれて」の「あらはれ」は、墨が涙に「洗はれ」る意と、思いが「現れ」る意とを掛けており、平仮名のままとした。
 四句「恋しとだにも」は、せめて恋しいとだけでもの意で、副助詞「だに」は最小限の願いを表す。
 結句「えこそ書かれね」は、書くことができないの意で、副詞「え」が打消と呼応して不可能を表す。係助詞「こそ」を受けて、打消の「ず」の已然形「ね」で結ぶ係り結びとなっている。

あらはる:墨が涙に「洗はる」意と、思いが「現る」意を掛ける
出典
金葉和歌集
前の歌
逢はずとも無からむ世にも思ひ出でよ 我ゆゑ命絶えし人ぞと
次の歌
色見えぬ心ばかりはしづむれど 涙はえこそ忍ばざりけれ