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音に聞くたかしの浜のあだ波は
かけじや袖の濡れもこそすれ

歌の意味
噂に名高い高師の浜のいたずらに立つ波は、袖にかけますまい。袖が濡れでもしたら困りますから。浮気者と評判のあなたの言葉は心にかけますまい、後で涙に袖を濡らすことになっては困りますから。
鑑賞
巻第八 恋歌下 469

 噂に高い高師の浜の、いたずらに立ち騒ぐ波は袖にかけまい、濡れでもしたら困るから、と詠む歌である。浮気者と評判の高いあなたの言葉など心にかけまい、後で泣いて袖を濡らすことになるから、という意を、高師の浜の波に寄せて切り返している。
 前歌の第四百六十八首への返歌である。伝本の中には「返し」の詞書を持つものがあり、堀河天皇の時代の康和四年(1102)の艶書合で、藤原俊忠の歌に答えたものとされる。このとき作者はすでに老境にあったと伝えられ、若い男の恋の歌を巧みにかわした機知が名高い。小倉百人一首にも採られている。
 作者の「祐子内親王家紀伊」は、後朱雀天皇の皇女祐子内親王に仕えた女房である。母も祐子内親王に仕えた小弁で、小倉百人一首にも歌が採られている。

 初句「音に聞く」は、噂に名高いの意で、評判の高い浮気者である相手を暗示している。
 二句「たかしの浜の」の「たかし」は、評判が「高し」の意と、和泉の歌枕の「高師の浜」とを掛けており、平仮名のままとした。
 三句「あだ波は」は、いたずらに立つ波はの意で、浮ついた男の心をたとえている。前歌の第四百六十八首の「波」を受けている。
 四句「かけじや袖の」は、袖にかけまいの意で、打消意志の「じ」に間投助詞「や」が付いて句切れとなる。「かけ」は、波を袖に掛ける意と、心にかける意とを重ねている。
 結句「濡れもこそすれ」は、濡れたら困るからの意で、係助詞「も」「こそ」が懸念を表し、サ変動詞「す」の已然形「すれ」で結んでいる。袖の濡れは、捨てられて泣くことを暗示している。

たかし:評判が「高し」の意と、和泉の歌枕の「高師の浜」を掛ける
あだなみ:いたずらに立ち騒ぐ波。浮ついた心をたとえる
かく:波を袖に「掛く」意と、心に「掛く」意を重ねる
作者
祐子内親王家紀伊
出典
金葉和歌集
前の歌
人知れぬ思ひありその浦風に 波のよるこそ言はまほしけれ
次の歌
契りおきし人もこずゑの木の間より 頼めぬ月の影ぞ漏り来る