- 歌の意味
-
花漆よ、これは塗る人が、共に寝る人がいなかったのか。ああ腹黒い、あなたの心であることよ。
- 鑑賞
-
巻第八 恋歌下 507
花漆を塗る人がいなかったのか、これは共に寝る人がいなかったからか、ああ腹黒いあなたの心よ、と詠む歌である。塗ると寝る、漆の黒と腹黒を掛け、つれない相手の心を戯れ混じりに責めているとみられる。語義には解釈の分かれる点がある。
初句「花漆」は、上塗りに用いる、精製した光沢のある漆をいう。
二句「こやぬる人の」の「こや」は、これはの意の「此や」で、「ぬる」は、漆を「塗る」意と、共に「寝る」意とを掛けており、平仮名のままとした。係助詞「や」は三句の「ける」と係り結びをなしている。
三句「なかりける」は、いなかったのかの意で、詠嘆の「けり」の連体形で、二句の「や」を受けて結び、三句切れとなる。
四句「あな腹黒の」は、ああ腹黒いの意で、感動詞「あな」に形容詞の語幹「腹黒」が付いている。漆の黒と縁語をなしている。
結句「君が心や」は、あなたの心であることよの意で、間投助詞「や」で詠嘆を込めて結んでいる。
はなうるし:上塗りに用いる、精製した光沢のある漆
ぬる:漆を「塗る」意と、「寝る」意を掛ける
はらぐろ:心がねじけて悪いこと
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
金葉和歌集
- 前の歌
-
盗人と言ふもことわりさ夜中に 君が心を取りに来たれば
- 次の歌
-
逢ふことを問ふ石神のつれなさに 我が心のみ動きぬるかな