憂かりしに秋は尽きぬと思ひしを
今年も虫の音こそなかるれ
- 歌の意味
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つらかったあの時に、秋というものは尽きてしまったと思っていたのに、今年も虫が鳴き、私も声をあげて泣かずにはいられない。
- 鑑賞
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巻第十 雑歌下 608
つらかった去年の秋で、もう秋の悲しみは尽きてしまったと思っていたのに、今年もまた虫の音に誘われて、声をあげて泣いてしまう、と詠む歌である。悲しい別れのあった秋から一年が過ぎても、なお尽きない悲しみを、虫の鳴き声と自分の泣く声とを重ねて表している。
前歌の第六百七首までの花や葦の歌から、本歌は秋の虫へと季節を移しながら、哀傷の思いを詠み継いでいる。
初句「憂かりしに」は、つらかった時にの意で、形容詞「憂し」に過去の「き」の連体形が付いている。悲しい出来事のあった秋を指している。
二句「秋は尽きぬと」は、秋は尽きてしまったとの意で、完了の「ぬ」が用いられている。悲しみとともに秋そのものも尽きたと思ったのである。
三句「思ひしを」は、思っていたのにの意で、接続助詞「を」が逆接を表している。
四句「今年も虫の」は、今年もまた虫がの意で、去年と今年とを対比させている。
結句「音こそなかるれ」は、声をあげて泣かずにはいられないの意で、虫が「鳴く」意と人が「泣く」意を掛けている。係助詞「こそ」を受けて、自発の「る」の已然形「るれ」で結ぶ係り結びとなっている。
なく:虫が鳴く意と、人が泣く意を掛ける
- 出典
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金葉和歌集
- 前の歌
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難波江の葦の若根の繁ければ 心もゆかぬ船出をぞする
- 次の歌
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塞きもあへぬ涙の川は速けれど 身のうき草は流れざりけり