玉櫛笥懸子に塵もすゑざりし
二親ながらなき身とを知れ
- 歌の意味
-
玉櫛笥の懸子に塵も置かないほど大切に私を育ててくれた両親を、二人ともに亡くした身であると知ってほしい。
- 鑑賞
-
巻第十 雑歌下 610
美しい化粧箱の懸子に塵ひとつ置かないように、大切に育ててくれた両親を、二人とも亡くしてしまった身であることを知ってほしい、と詠む歌である。箱の中の品を大事にしまうように育てられた身が、今は頼る親もいない境遇となったことを訴えている。
次歌の第六百十一首は、幼い子を思う親の側の歌であり、本歌の親を失った子の嘆きと、親子の情を表裏から詠む二首が並べられている。
初句「玉櫛笥」は、櫛などを入れる美しい箱の意で、二句の「懸子」と縁をなしている。
二句「懸子に塵も」は、懸子に塵ひとつもの意で、箱の中の小箱に大切にしまわれた品のように育てられたことをいう。
三句「すゑざりし」は、置かなかったの意で、打消の「ず」に過去の「き」の連体形「し」が付き、四句の「二親」にかかる。
四句「二親ながら」は、両親ともにの意で、接尾語「ながら」が、二人ともそろっての意を表している。
結句「なき身とを知れ」は、亡くした身であると知れの意で、命令形「知れ」で結んでいる。
たまくしげ:櫛などの化粧道具を入れる美しい箱
かけご:箱の縁に掛けて中にはめこむ小箱
すう:物を置く、据える
ふたおや:父と母、両親
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
金葉和歌集
- 前の歌
-
塞きもあへぬ涙の川は速けれど 身のうき草は流れざりけり
- 次の歌
-
身にまさるものなかりけりみどり子は やらむ方なくかなしけれども