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身にまさるものなかりけりみどり子は
やらむ方なくかなしけれども

歌の意味
我が身にまさって大切なものはないのだなあ。幼い子は、どうしようもないほどいとしいけれども。
鑑賞
巻第十 雑歌下 611

 幼い子はどうしようもないほどいとしいけれども、それでも我が身にまさって大切なものはなかったのだ、と詠む歌である。子をいとおしむ思いと、それでも我が身を捨てきれない思いとの間で揺れる心を、二句切れの倒置によって率直に表している。
 前歌の第六百十首が親を亡くした子の嘆きであったのに対し、本歌は子を思う親の側から詠まれており、親子の情を表裏から描く二首となっている。

 初句「身にまさる」は、我が身にまさるの意で、自分の身よりも大切であることをいう。
 二句「ものなかりけり」は、ものはなかったのだなあの意で、詠嘆の「けり」で言い切る二句切れの歌である。三句以下と倒置になっている。
 三句「みどり子は」は、幼い子はの意である。
 四句「やらむ方なく」は、思いを晴らすすべもなくの意で、どうしようもないほどの思いを表している。
 結句「かなしけれども」は、いとしいけれどもの意で、形容詞「かなし」がいとおしい意を表す。逆接の「ども」で言いさして、二句に返る形となっている。

みどりご:三歳くらいまでの幼い子
やる:心の思いを晴らす。「やらむ方なし」で、思いを晴らす方法がない意
作者
よみ人しらず
出典
金葉和歌集
前の歌
玉櫛笥懸子に塵もすゑざりし 二親ながらなき身とを知れ
次の歌
流れても逢ふ瀬ありけり涙川 消えにし泡を何にたとへむ