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吹き返す鷲の山風なかりせば
衣の裏の玉を見ましや

歌の意味
衣を吹き返す霊鷲山の山風がなかったならば、衣の裏に縫いつけられた宝の玉を見ることができただろうか。
鑑賞
巻第十 雑歌下 634

 衣の裾を吹き返す霊鷲山の山風がなかったならば、衣の裏に縫いつけられていた宝の玉を見ることができただろうか、と詠む歌である。法華経五百弟子受記品に説かれる衣裏宝珠のたとえを踏まえ、釈迦の説法を山風にたとえて、その教えによって自らに備わる仏性に気づくことができたと詠んでいる。
 衣裏宝珠のたとえは、友人に宝の玉を衣の裏に縫いつけてもらいながら、それに気づかずに貧しく暮らした人が、のちにそれを知らされるという話で、本巻の第六百四十首にも「衣の玉」が詠まれている。

 初句「吹き返す」は、吹き返すの意で、風が衣の裾をひるがえすことをいう。
 二句「鷲の山風」は、霊鷲山に吹く山風の意で、釈迦が法華経を説いた山を指し、その説法をたとえている。
 三句「なかりせば」は、なかったならばの意で、過去の「き」の未然形「せ」に接続助詞「ば」が付き、結句の「まし」と呼応して反実仮想を表す。本巻の第六百三十一首の三句と同じである。
 四句「衣の裏の」は、衣の裏にの意で、衣裏宝珠のたとえを踏まえている。本巻の第六百四十首の二句「衣の玉を」と通じている。
 結句「玉を見ましや」は、玉を見ることができただろうかの意で、反実仮想の「まし」に係助詞「や」が付いて反語を表している。「吹き返す」「衣」「裏」が縁語となっている。

わしのやま:霊鷲山。釈迦が法華経を説いたとされる山
ころものうらのたま:法華経に説かれる、衣の裏に縫いつけられた宝珠。人に本来備わる仏性のたとえ
出典
金葉和歌集
前の歌
命をも罪をも露にたとへけり 消えばともにや消えむとすらむ
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法のため担ふ薪にことよせて やがて憂き世をこりぞはてぬる