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ものをこそ忍べば言はぬ岩代の
森にのみもる我が涙かな

歌の意味
恋の思いを忍んでいるからこそ、口に出しては言わない。その言わぬという名の岩代の森にばかり漏れるように、私の涙だけが漏れることだ。
鑑賞
巻第十一 異本歌 696

 恋の思いを忍んでいるからこそ口に出しては言わないが、言わぬに通じる名の岩代の森に漏れる雫のように、私の涙だけはこぼれてしまう、と詠む歌である。言葉には出さない恋の思いが、涙となってあふれることを表している。
 本歌は、本集の伝本のうち異本にのみ見える歌で、異本の配列では、本集の巻第八の第四百六十二首の次に置かれている。次歌の第六百九十七首を挟んで、巻第八の第四百六十三首は涙に浮かぶ我が身を嘆く歌であり、涙の歌が続いている。

 初句「ものをこそ」は、恋の思いをこそはの意で、係助詞「こそ」が強めを表している。
 二句「忍べば言はぬ」は、忍んでいるので言わないの意で、已然形に接続助詞「ば」が付いて理由を表す。
 三句「岩代の」は、歌枕の岩代の森のの意で、二句の「言はぬ」と音を重ねている。
 四句「森にのみもる」は、森にばかり漏れるの意で、「もる」は涙が漏れる意で、「森」と音を響かせている。
 結句「我が涙かな」は、私の涙であることだの意で、終助詞「かな」で詠嘆して結んでいる。巻第八の第四百六十三首も涙を詠む歌である。

いはしろのもり:歌枕の岩代の森。「言はぬ」と音を重ねる
もる:涙が漏れる意で、「森」の縁で番をする意の「守る」を響かせる
しのぶ:思いを人に知られないように隠す
出典
金葉和歌集
前の歌
山里の思ひかけぢにつららゐて とくる心のかたげなるかな
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つれづれと思ひぞ出づる見し人を 逢はで幾月眺めしつらむ