うとましや木の下陰の忘れ水
いくらの人の影を見つらむ
- 歌の意味
-
なんといとわしいことか。木の下陰の忘れ水は、これまでどれほど多くの人の姿を映してきたのだろうか。
- 鑑賞
-
巻第十一 異本歌 699
人目につかない木の下陰を流れる忘れ水は、これまでどれほど多くの人の姿を映してきたのだろうか、なんといとわしいことだ、と詠む歌である。ひそかに多くの人と逢ってきた相手を忘れ水にたとえ、その浮気な心を恨んでいる。
本歌は、本集の伝本のうち異本にのみ見える歌で、異本の配列では、本集の巻第八の第四百九十八首の次に置かれている。また巻第八の第四百五十八首も、岩間に淀む忘れ水を詠む恋の歌である。
初句「うとましや」は、なんといとわしいことかの意で、形容詞「うとまし」の語幹に間投助詞「や」が付いた詠嘆である。初句切れの歌である。
二句「木の下陰の」は、木の下の陰のの意で、人目につかない所を示している。
三句「忘れ水」は、人に知られずに流れる水の意で、浮気な恋人をたとえている。巻第八の第四百五十八首の三句と同じ語である。
四句「いくらの人の」は、どれほど多くの人のの意である。
結句「影を見つらむ」は、姿を映してきたのだろうかの意で、完了の「つ」に現在推量の「らむ」が付いて結んでいる。水に映る姿に、ひそかに逢った人を重ねている。
わすれみづ:野中や木陰などを人に知られずに流れる水
かげ:水に映る姿
- 出典
-
金葉和歌集
- 前の歌
-
なこそといふことをば君が言種を 関の名ぞとも思ひけるかな
- 次の歌
-
つらかりし心ならひに逢ひ見ても なほ夢かとぞ疑はれける