五月雨に濡れにし袖にいとどしく
露置き添ふる秋のわびしさ
- 歌の意味
-
五月雨に濡れた袖に、いっそう露が置き加わる、秋のわびしさよ。
- 鑑賞
-
巻第六 秋歌中 277
詞書「母の服にて里に侍りけるに、先帝の御文賜へりける御返事に」
五月雨に濡れた袖に、さらに露が置き加わる秋のわびしさを訴えた歌である。母を亡くした悲しみの涙に、秋の露の涙が重なる心を表している。
詞書によれば、母の喪に服して里に下がっていたところ、先帝である醍醐天皇から手紙を賜ったので、その返事として詠んだものである。五月雨のころから喪に服し、秋になってもなお涙の乾かない身であることがうかがえる。次歌は醍醐天皇の返歌で、二首は贈答をなしている。
作者の「近江更衣」は源周子である。源唱の娘で、醍醐天皇の更衣となり、源高明らの母となった。
初句「五月雨に」は、陰暦五月ごろの長雨に、の意で、喪に服して以来の涙を重ねている。
二句「濡れにし袖に」の「に」は完了、「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、濡れてしまった袖に、の意である。
三句「いとどしく」は、いっそう、ますます、の意である。巻第五の第二百二十首も初句に「いとどしく」を置き、もの思いの上に重なる秋のわびしさを詠んでいる。
四句「露置き添ふる」は、露がさらに置き加わる、の意で、露には涙が重ねられている。
結句「秋のわびしさ」は体言止めで、わびしさの余韻を残している。次歌の第二百七十八首は二句に「秋はわびしき」と置いて受けている。
ぶく:喪に服すること、またその喪服
さと:宮仕えする人の実家
さみだれ:陰暦五月ごろに降り続く長雨
- 作者
-
源周子
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
女郎花花の心のあだなれば 秋にのみこそ逢ひわたりけれ
- 次の歌
-
おほかたも秋はわびしき時なれど 露けかるらん袖をしぞ思ふ