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来ぬ人をまつの枝に降る白雪の
消えこそかへれくゆるおもひに

歌の意味
来ない人を待つ私は、松の枝に降る白雪が消えるように、すっかり消え入ってしまう。くすぶる火のような悔やむ思いのために。
鑑賞
巻第十二 恋歌四 851

詞書「忘れがたになり侍りける男につかはしける」
 来ない人を待つ私は、松の枝に降る白雪のように、くすぶる悔いの思いに消え入ってしまう、と詠んだ歌である。忘れかけている男を待ち続ける身を、松に積もって消える雪にたとえ、悔いの思いに身を焦がす苦しさを訴えている。
 詞書によれば、自分を忘れかけていた男に送った歌である。本巻の第八百六十五首も「くゆる」の語を用い、くすぶる煙に恋の思いを託している。
 作者の承香殿中納言は、承香殿に住む女御に仕え、中納言と呼ばれた女房である。誰を指すかについては定説を見ない。

 初句「来ぬ人を」は、来ない人を、の意である。
 二句「まつの枝に降る」は、松の枝に降る、の意で、「まつ」に「松」と「待つ」を掛けている。
 三句「白雪の」は、白雪のように、の意で、雪が消えることから四句の「消え」を導いている。
 四句「消えこそかへれ」は、すっかり消え入ってしまう、の意で、「こそ」は強めの係助詞で、已然形「かへれ」で結ぶ係り結びとなっている。
 結句「くゆるおもひに」は、くすぶる悔やむ思いのために、の意で、「くゆる」に煙がくすぶる意の「燻ゆる」と「悔ゆる」を、「おもひ」の「ひ」に「火」を掛けている。四句と倒置になっている。

まつ:「松」と「待つ」を掛ける
きえかへる:すっかり消え入る
くゆる:煙がくすぶる意の「燻ゆる」と、「悔ゆる」を掛ける
おもひ:「思ひ」の「ひ」に「火」を掛ける
作者
承香殿中納言
出典
後撰和歌集
前の歌
嘆けどもかひなかりけり世の中に 何に悔しく思ひ初めけん
次の歌
菊の花うつる心を置く霜に かへりぬべくも思ほゆるかな