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花散るといとひしものを夏衣
たつや遅きと風を待つかな

歌の意味
花が散るといって嫌っていたものだが、夏衣を裁ち、夏が立つや否や、今は待ち遠しく風を待っていることだ。
鑑賞
巻第二 夏歌 82

詞書「夏の初めに詠み侍りける」
 春には花を散らすものとして嫌っていた風を、夏になった今は涼しさを求めて待ちわびていると、季節による心の移り変わりを詠んだ歌である。同じ風に対する思いが春と夏とで反転することを、夏の初めの心としてとらえている。詞書によれば、夏の初めに詠んだ歌である。
 作者の「盛明のみこ」は盛明親王である。醍醐天皇の皇子で、一度は臣籍に下って源盛明と名のり、のちに親王に復した。

 初句「花散ると」は、花が散るといって、の意で、春の風を花を散らすものとしてとらえる。
 二句「いとひしものを」は、嫌っていたのに、の意で、「ものを」は逆接の接続助詞である。過去の「し」によって春の心を振り返る。
 三句「夏衣」は、四句の「たつ」を導く。前歌が春の衣を脱ぐ惜しさを詠んだのに続き、本歌は夏衣に移った後の心を詠んでいる。
 四句「たつや遅きと」は、「たつ」に夏衣を裁つ意と夏が立つ意を掛けた掛詞である。「や遅き」は、するやいなや、の意で、夏になるとすぐに、という気持ちを表す。
 結句「風を待つかな」は、涼しい風を待ち望むことをいい、「かな」は詠嘆の終助詞である。初句で嫌われた風が、結句では待たれる風に転じ、待つ側と厭う側の反転した構図を一首の中に収めている。

いとふ:嫌って避ける
たつ:夏衣を裁つ意と、夏が立つ意を掛ける
作者
盛明親王
出典
拾遺和歌集
前の歌
花の色に染めしたもとの惜しければ 衣替へ憂き今日にもあるかな
次の歌
夏にこそ咲きかかりけれ藤の花 松にとのみも思ひけるかな