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盗人のたつたの山に入りにけり
同じかざしの名にや汚れん

歌の意味
盗人が立つという立田山に入ってしまった。同じ山の挿頭を挿す身として、盗人と同じ名に汚れてしまうのだろうか。
鑑賞
巻第九 雑歌下 560

詞書「廉義公家の紙絵に、旅人の盗人に逢ひたる形描ける所」
 盗人が立つという立田山に入ってしまったので、同じ山の挿頭を挿す身として、盗人と同じ名に汚れるのだろうかと詠む歌である。詞書から、廉義公藤原頼忠の家の紙絵に、旅人が盗人に出会った場面が描かれた所に添えた歌とわかる。地名の「立田」に盗人が「立つ」を掛け、盗賊の出る山として知られた立田山に入った旅人の身になって、盗人と同じ名を負うことを恐れている。次歌の第五百六十一首も同じ絵に添えた歌である。
 作者の「藤原為順」は、伝の詳らかでない人物である。廉義公は藤原頼忠で、藤原実頼の子である。

 初句「盗人の」は、盗人が、の意で、二句の「たつ」にかかる。
 二句「たつたの山に」は、「たつた」が盗人が「立つ」と地名の「立田」を掛ける掛詞である。次歌の第五百六十一首の二句「たつたの山の」も、同じく「立つ」と「立田」を掛けている。
 三句「入りにけり」は、入ってしまった、の意で、「に」は完了、「けり」は詠嘆の助動詞である。ここで句切れとなる三句切れの歌である。
 四句「同じかざしの」は、同じ挿頭を挿す、の意で、同じ山の花や枝を挿す身、すなわち盗人と同じ仲間であることをいう。
 結句「名にや汚れん」は、名に汚れるのだろうか、の意で、係助詞「や」を受けて推量の助動詞「ん」の連体形で結ぶ係り結びである。

たつた:盗人が「立つ」意と、大和国の地名「立田」を掛ける
かざし:挿頭。髪や冠に挿す花や枝
けがる:汚る。汚れる、名誉を損なう
作者
藤原為順
出典
拾遺和歌集
前の歌
陸奥の安達の原の黒塚に 鬼こもれりと聞くはまことか
次の歌
なき名のみたつたの山の麓には 世にもあらしの風も吹かなん