古典和歌stream

心をば千草の色に染むれども
袖に移るは萩が花摺り

歌の意味
心は、野のさまざまな秋草の色に染めているけれども、袖に移って色をつけるのは、萩の花摺りである。
鑑賞
巻第四 秋歌上 250

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 野の千草の色に心はさまざまに染まっているけれども、実際に袖に移って色をつけるのは萩の花摺りの色だけである、と詠む。心は多くの秋草に引かれながらも、身に色を残すのは萩であるとして、秋草の中でも萩を格別のものとして称えている。萩を詠む歌はここで結ばれる。
 作者の「長覚法師」は伝の詳らかでない僧である。
 花摺りは、花を布に摺りつけて色を移し染めることで、萩は古くから衣を摺り染めるものとして詠まれてきた。

 初句「心をば」の「をば」は対象を強調する助詞で、心は、の意である。三句以下の「袖」と対をなす。
 二句「千草の色に」の「千草」はさまざまな草で、秋の野の多くの草花をいう。本巻の第二百六十二首「千草の色に」も同じ句を用いる。
 三句「染むれども」の「ども」は逆接で、心は染めるけれども、の意となる。
 四句「袖に移るは」は、袖に色が移るのは、の意である。初句の「心」に対し、目に見える「袖」を置く。
 結句「萩が花摺り」は体言止めで、萩の花を摺りつけて染めた色をいう。千草の中から萩だけを挙げて結び、萩を詠む歌を閉じる。

ちぐさ:さまざまな草
はなずり:花を布に摺りつけて色を移し染めること
作者
長覚
出典
千載和歌集
前の歌
宮城野の萩や小牡鹿の妻ならん 花咲きしより声の色なる
次の歌
露しげきあしたの原の女郎花 一枝折らん袖は濡るとも