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虫の音もまれになりゆくあだし野に
ひとり秋なる月の影かな

歌の意味
虫の声もしだいにまれになってゆくあだし野に、ただひとり秋の趣をとどめている月の光であることよ。
鑑賞
巻第五 秋歌下 334

詞書「題しらず」
 虫の声もしだいにまれになってゆくあだし野で、ただ月の光だけが、ひとり秋らしさをとどめている、と詠む。虫の声が絶えてゆく寂しい野に、変わらず照る月を対比させ、晩秋の野の寂寥を描いている。
 作者の「(仁和寺)道性法親王」は仁和寺に入った法親王である。
 本歌で虫の歌が終わり、次歌の第三百三十五首とともに、移ろう秋の中で変わらない月を詠む二首が続く。

 初句「虫の音も」の「も」は、ほかのものとともに虫の声も、の意である。本巻の第三百二十八首以来の虫の歌をここで結ぶ。
 二句「まれになりゆく」は、しだいに少なくなってゆく、の意で、虫の声の衰えを示す。
 三句「あだし野に」の「あだし野」は京の嵯峨の奥にあった野で、葬送の地として知られ、はかなさを連想させる地名である。
 四句「ひとり秋なる」は、ただひとり秋の趣をとどめている、の意で、虫の声が絶えた後に残る月の孤独をいう。
 結句「月の影かな」の「影」は月の光である。「かな」は詠嘆で、次歌の第三百三十五首の「月こそ色も変はらざりけれ」と、変わらぬ月を詠む点で対応する。

あだしの:京の嵯峨の奥にあった野で、葬送の地として知られ、はかなさを連想させる
かげ:光、またその光に照らされた姿
作者
道性法親王
出典
千載和歌集
前の歌
さりともと思ふ心も虫の音も 弱り果てぬる秋の暮れかな
次の歌
草も木も秋の末葉は見えゆくに 月こそ色も変はらざりけれ