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思ひきや今日打ち鳴らす鐘の音に
伝へし笛の音を添へんとは

歌の意味
思いもしなかった。今日、供養のために打ち鳴らす鐘の音に、あの方から伝え授けられた笛の音を添えることになろうとは。
鑑賞
巻第九 哀傷歌 597

詞書「花園左大臣の家に童にて侍りけるを、笛教へ侍るとて給へりける笛を、年経て後かのために仏供養し侍りける時、笛に添へて侍りける」
 作者が花園左大臣源有仁の家に童として仕えていた時、有仁が笛を教えるといって与えてくれた笛を、年月を経てのちに、有仁のために仏事を営んだ折、その笛に添えた歌である。思いもしなかった、今日打ち鳴らす鐘の音に、伝えられた笛の音を添えようとは、と詠む。かつて主人から教えを受けた笛を、その主人の供養の場で奏でることになった巡り合わせを嘆き、師でもあった主人への追慕を表している。
 作者の「法印成清」は平安時代末期の僧で、法印に至った。詞書によれば、若い頃に源有仁の家に童として仕えた。
 本巻の第五百七十七首も「打ち鳴らす鐘の音」と、法会の鐘を詠む。本巻の第五百八十五首は有仁の妻の歌である。

 初句「思ひきや」の「き」は過去の助動詞、「や」は反語の係助詞で、思っただろうか、思いもしなかった、の意である。ここで句切れとなる。
 二句「今日打ち鳴らす」は、今日の供養で打ち鳴らす、の意である。本巻の第五百七十七首の初句「打ち鳴らす」と同じ語である。
 三句「鐘の音に」は六音の字余りで、法会の鐘の音をいう。
 四句「伝へし笛の」の「伝へ」は伝え授ける意、「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、主人から伝え授けられた笛の、の意である。
 結句「音を添へんとは」の「ん」は推量の助動詞で、笛の音を添えようとは、の意である。三句の鐘の「音」と結句の笛の「音」を重ね、初句の「思ひきや」に返る倒置である。

ほとけくやう:仏像や経を供えて法要を営むこと
つたふ:受け継がせる、伝授する
わらは:貴人の家などに仕える少年
作者
成清
出典
千載和歌集
前の歌
何事の深き思ひに泉川 底の玉藻と沈み果てけん
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先立たむことを憂しとぞ思ひしに 後れても又悲しかりけり