古典和歌stream

難波江の葦のかりねのひとよゆゑ
みをつくしてや恋ひわたるべき

歌の意味
難波の入り江の葦の刈り根の一節のように短い、旅の仮寝のたった一夜のために、澪標のように身を尽くして、私はこれからずっと恋し続けなければならないのだろうか。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 807

詞書「摂政右大臣の時の家の歌合に、旅宿逢恋といへる心を詠める」
 摂政藤原兼実が右大臣であった時、その家で催された歌合で、「旅宿逢恋」、すなわち旅の宿で逢う恋という題で詠んだ歌である。難波江の葦の刈り根の一節のような仮寝の一夜のために、身を尽くして恋い続けねばならないのか、と詠む。旅先で行きずりに結んだ短い一夜の契りが、一生をかけた恋になってしまうかもしれないという嘆きを、難波江の景物に掛詞と縁語を重ねて詠み込んだ技巧の歌である。藤原定家の小倉百人一首にも採られている。
 作者の「皇嘉門院別当」は太皇太后宮亮源俊隆の娘である。崇徳天皇の中宮皇嘉門院藤原聖子に仕えた女房で、皇嘉門院は詞書の摂政藤原兼実の姉にあたる。

 初句「難波江の」は、摂津国の難波の入り江の、の意で、葦の名所である。
 二句「葦のかりねの」の「かりね」は、葦の「刈り根」と、旅の「仮寝」とを掛ける。題の「旅宿」を示す。
 三句「ひとよゆゑ」の「ひとよ」は、葦の「一節(ひとよ)」と「一夜」とを掛ける。一節の短さに一夜の契りのはかなさを重ね、題の「逢」を示す。
 四句「みをつくしてや」の「みをつくし」は、水路の目印として立てる杭の「澪標」と、「身を尽くし」とを掛ける。「や」は疑問の係助詞で、結句の「べき」と係り結びをなす。
 結句「恋ひわたるべき」の「わたる」は、ずっと〜し続ける意で、難波江の縁語である。「べき」は「や」の結びで、恋い続けなければならないのだろうか、の意である。

なにはえ:摂津国の難波の入り江
かりね:葦の「刈り根」に、旅の「仮寝」を掛ける
ひとよ:葦の「一節」に、「一夜」を掛ける
みをつくし:水路の目印の杭である「澪標」に、「身を尽くし」を掛ける
わたる:ずっと〜し続ける。難波江の縁語
作者
皇嘉門院別当
出典
千載和歌集
前の歌
思へただ入りやらざりし有明の 月より先に出でし心を
次の歌
恋ひ恋ひて逢ふ嬉しさを包むべき 袖は涙に朽ち果てにけり