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うき雲のかかるほどだにあるものを
隠れな果てそ有明の月

歌の意味
浮雲がかかっている間でさえ心細いのに、すっかり隠れてしまわないでおくれ、有明の月よ。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 1000

詞書「従一位藤原宗子、病重くなりて久しく参り侍らで、心細きよしなど奏せさせ侍りけるに遣はしける」
 従一位藤原宗子が病が重くなって長く参内せず、心細いことなどを申し上げさせてきたので、それに応えて送った歌である。浮雲がかかる間でさえつらいのに、すっかり隠れてしまわないでくれ、有明の月よ、と詠む。病に伏す宗子を有明の月に、病を月にかかる浮雲にたとえ、どうか死なないでほしいと強く願う心を表している。
 作者の「近衛院御製」は近衛天皇の御製である。鳥羽天皇の皇子で、母は美福門院藤原得子である。幼くして即位したが、十七歳の若さで崩じた。
 本歌と次歌の第千一首、本巻の第千六首、第千十五首は「有明の月」を詠んでおり、本歌と第千六首、第千十五首は結句を共有している。

 初句「うき雲の」の「うき」は、空に浮かぶ意と、つらい意の「憂き」を掛ける掛詞で、病をたとえている。
 二句「かかるほどだに」の「だに」は、〜さえ、の意で、雲がかかっている間でさえ、の意である。
 三句「あるものを」の「ものを」は逆接の接続助詞で、心細いことであるのに、の意である。ここで句切れとなる。
 四句「隠れな果てそ」は「な〜そ」の形の禁止表現で、すっかり隠れてしまわないでくれ、の意である。月が隠れることに死ぬことを重ねている。
 結句「有明の月」は、夜が明けても空に残る月で、宗子をたとえた呼びかけの体言止めとなっている。次歌の第千一首の二句「有明の月の」、本巻の第千六首、第千十五首の結句と同じ句である。

うきぐも:空に浮かぶ雲の意に、つらい意の「憂き」を掛ける
ありあけのつき:夜が明けても空に残っている月
そうす:天皇に申し上げる
作者
近衛天皇
出典
千載和歌集
前の歌
残りなくわがよ更けぬと思ふにも 傾く月に澄む心かな
次の歌
木の間もる有明の月の送らずは ひとりや山の峰を出でまし