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おく露のかかる物とは思へども
かれせぬ物はなでしこの花

歌の意味
置く露がかかるように、このようにはかないものとは思うけれども、枯れることのない、離れることのないものは、撫子の花である。
鑑賞
巻第十 恋歌二 698

詞書「かくておこせて侍りけれど、宮仕へする人なりければ、暇なくて、又の朝に常夏の花につけておこせて侍りける」
 置く露のかかるようにはかないものとは思うが、枯れずに離れないものはなでしこの花だ、と詠んだ歌である。露にはかなさを、枯れない撫子に変わらぬ思いを託し、二人の仲が絶えないことを伝えている。
 詞書によれば、こうして便りをよこしたものの、宮仕えをする人なので暇がなく、翌朝に常夏の花につけてよこした歌である。原文の作者表記は源庶明であるが、詞書の文脈からは、宮仕えする女の側から送られた歌とも読める。次歌の第六百九十九首はこの歌への返しである。
 作者の「源もろあきらの朝臣」は源庶明である。宇多天皇の孫で、斉世親王の子にあたり、中納言を務めた。

 初句「おく露の」は、草葉に置く露の、の意である。
 二句「かかる物とは」の「かかる」は、露が「掛かる」意と、このような、の意を掛けた掛詞である。
 三句「思へども」は、思うけれども、の意である。
 四句「かれせぬ物は」の「かれ」は、花が「枯れ」る意と、人が「離れ」る意を掛けた掛詞である。次歌の第六百九十九首は初句に「かれずとも」を置いて応じている。
 結句「なでしこの花」は、撫子の花で、詞書の常夏の花を指し、「撫でし子」の意を響かせている。体言止めで一首を結んでいる。

かかる:露が「掛かる」意と、このようなの意を掛ける
かる:花が「枯る」意と、人が「離る」意を掛ける
とこなつ:撫子の別名
作者
源庶明
出典
後撰和歌集
前の歌
つまにおふることなし草を見るからに 頼む心ぞ数まさりける
次の歌
かれずともいかが頼まむなでしこの 花は常盤の色にしあらねば