さを鹿の妻なき恋を高砂の
尾上の小松聞きも入れなん
- 歌の意味
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妻のいない牡鹿が恋い慕って鳴く声を、高砂の峰の上の小松よ、せめて聞き入れてほしい。
- 鑑賞
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巻第十四 恋歌六 1056
詞書「人を言ひわづらひて、異人に逢ひ侍りて後、いかがありけん、初めの人に思ひ返りて程経にければ、文はやらずして、扇に高砂の形描きたるにつけてつかはしける」
妻のいない牡鹿の恋を、高砂の尾上の小松よ、聞き入れてほしい、と詠んだ歌である。ほかの人と結ばれたのちに再び初めの人を思うようになった自分を、妻を求めて鳴く牡鹿に、相手を高砂の尾上の小松にたとえ、もう一度思いを受け入れてほしいと願っている。
詞書によれば、ある人に言い寄りあぐねてほかの人と結ばれたのち、どうしたことか、初めの人を再び思うようになって時が経ったので、手紙は送らずに、高砂の絵を描いた扇に付けて送った歌で、次歌の第千五十七首に返しが置かれている。扇の絵の高砂を歌に詠み込んでいる。本巻の第千九首も鹿に寄せた恋を詠んでいる。
作者の源庶明朝臣は、宇多天皇の皇子斉世親王の子で、中納言に至った。
初句「さを鹿の」は、牡鹿の、の意で、「さ」は接頭語である。次歌の初句と同じである。
二句「妻なき恋を」は、妻のいない恋を、の意で、妻を求めて鳴く鹿の声に、相手を失った作者自身の恋を重ねている。
三句「高砂の」は、播磨国の高砂の、の意で、詞書の扇に描かれた高砂の絵を詠み込んでいる。
四句「尾上の小松」は、峰の上の小さな松、の意で、相手の女をたとえている。
結句「聞きも入れなん」は、聞き入れてほしい、の意で、「なん」は他にあつらえ望む終助詞である。
さをしか:牡鹿
をのへ:山の峰の上
たかさご:播磨国の地名。松の名所
- 作者
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源庶明
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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八重葎さしてし門をいまさらに 何にくやしく開けて待ちけん
- 次の歌
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さを鹿の声たかさごに聞こえしは 妻なき時の音にこそありけれ