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君をなほ怨みつるかな海人の刈る
藻に住む虫の名を忘れつつ

歌の意味
あなたをやはり恨んでしまったことよ。海人の刈る藻に住む虫の名、「われから」、つまり自分のせいだということを忘れては。
鑑賞
巻第十五 恋歌五 986

詞書「小野宮のおほいまうちぎみに遣はしける」
 あなたをやはり恨んでしまった、海人の刈る藻に住む虫の名「われから」、つまり自分のせいだということを忘れては、と詠む歌である。恋の苦しみは自分から招いたものだと分かっていながら、つい相手を恨んでしまう心を、虫の名を用いて機知的に詠んでいる。
 詞書によれば、小野宮の大臣、すなわち藤原実頼に贈った歌である。
 作者の「閑院大君」は、光孝天皇の孫にあたる源宗于の娘である。元良親王や藤原師尹とも交わりがあり、大和物語にもその名が見える。
 古今和歌集の典侍藤原直子の「海人の刈る藻に住む虫のわれからと音をこそ泣かめ世をば恨みじ」を踏まえている。

 初句「君をなほ」は、あなたをやはり、の意である。
 二句「怨みつるかな」は、恨んでしまったことよ、の意で、「かな」は詠嘆を表す。ここで句切れとなる。本巻の第九百五十三首、第九百七十三首の結句「怨みつるかな」と同じ語句である。
 三句「海人の刈る」は、漁師が刈り取る、の意である。
 四句「藻に住む虫の」は、海藻に住む虫の、の意で、その虫の名「われから」を、自分のせいでの意の「我から」として用いている。次歌の第九百八十七首の初句から二句「海人の刈る藻に住む虫の」と、同じ語句を共有している。
 結句「名を忘れつつ」は、その名を忘れては、の意で、「つつ」は反復を表す。上の句の理由を倒置によって後から述べている。

われから:割殻。海藻に付く小さな甲殻類で、「我から」を言い掛けて用いられる
も:藻。海藻
おほいまうちぎみ:大臣
作者
閑院大君
出典
拾遺和歌集
前の歌
怨みての後さへ人のつらからば いかに言ひてか音をも泣かまし
次の歌
海人の刈る藻に住む虫の名は聞けど ただわれからのつらきなりけり