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月影は消えぬ氷と見えながら
さざ波寄する志賀の唐崎

歌の意味
月の光は、溶けて消えることのない氷と見えながら、そこにさざ波が寄せている、志賀の唐崎よ。
鑑賞
巻第四 秋歌上 294

詞書「湖上月といへる心をよめる」
 「湖上月(湖の上の月)」という題で詠んだ歌である。湖面を照らす月の光は、溶けることのない氷のように見えるのに、そこにはさざ波が寄せている、志賀の唐崎では、と詠む。氷と見える静かな光と寄せる波の動きとを対比させ、凍ったようでいて凍らない湖上の月の不思議な美しさを描いている。
 作者の「藤原顕家朝臣」は大宰大弐藤原重家の子で、六条藤家の歌人である。
 前歌の第二百九十三首「結ばぬ氷」と本歌の「消えぬ氷」とは、凍らない氷と消えない氷という反転した見立てで対をなす。また本巻の第二百八十九首も、志賀の浦の波を月光で氷と見ており、本歌と呼応する。

 初句「月影は」は、月の光は、の意である。
 二句「消えぬ氷と」は、溶けて消えることのない氷と、の意である。前歌の第二百九十三首「結ばぬ氷」と対をなす。
 三句「見えながら」の「ながら」は逆接で、見えながらも、の意である。氷と見えるのに波が寄せるという対比を導く。
 四句「さざ波寄する」の「さざ波」は細かく立つ波で、志賀を導く語としても用いられる。
 結句「志賀の唐崎」は体言止めで、琵琶湖西岸の岬である。本巻の第二百八十九首「志賀の浦波」に続き、志賀の月を詠む。

からさき:近江国の歌枕で、琵琶湖西岸の岬
さざなみ:細かく立つ波
作者
藤原顕家
出典
千載和歌集
前の歌
石間行く御手洗川の音冴えて 月や結ばぬ氷なるらん
次の歌
照る月の影冴えぬれば浅茅原 雪の下にも虫は鳴きけり