移り香に何染みにけん小夜衣
忘れぬつまとなりけるものを
- 歌の意味
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どうして移り香がこの夜の衣に染みてしまったのだろう。そのために、恋しい人を忘れられないきっかけとなってしまったのに。
- 鑑賞
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巻第十四 恋歌四 883
詞書「移香増恋といへる心を詠み侍りける」
「移り香に増す恋」の題で詠んだ歌である。どうして移り香が染みてしまったのだろう、小夜衣に、忘れられないきっかけとなってしまったのに、と詠む。共寝をした恋しい人の香りが自分の夜の衣に移って残り、その香りのために恋しさが募って忘れることができなくなったと、移り香を恨むような形で、かえって深まる恋心を表している。
作者の「権中納言経房」は藤原経房である。藤原光房の子で、権中納言に至った。日記『吉記』を残し、吉田経房とも呼ばれる。
初句「移り香に」の「移り香」は人の衣などから移って残った香りのことである。題の「移香」に当たる。
二句「何染みにけん」の「何」はどうして、の意で、「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形、「けん」は過去の原因推量の助動詞である。どうして染みてしまったのだろう、の意となる。ここで句切れとなる。
三句「小夜衣」は夜に着る衣、寝るときの衣のことで、「小」は接頭語である。二句の「染み」の主語となり、倒置の形になっている。
四句「忘れぬつまと」の「つま」は、物事のきっかけ、よすがの意の「端」に、衣の「褄」を掛ける。「褄」は「小夜衣」の縁語である。
結句「なりけるものを」の「ける」は過去の助動詞「けり」の連体形、「ものを」は逆接の詠嘆を表す終助詞で、なってしまったのに、の意である。
うつりが:人の衣などから移って残った香り
さよごろも:夜に着る衣、寝るときの衣
つま:きっかけの意の「端」に、衣の「褄」を掛ける
- 作者
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藤原経房
- 出典
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千載和歌集
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逢ふことのありし所し変はらずは 心をだにもやらましものを
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忘れぬや忍ぶやいかに逢はぬまの 形見と聞きし明け暮れの空