逢ふことのありし所し変はらずは
心をだにもやらましものを
- 歌の意味
-
逢っていたあの場所さえ変わっていなかったならば、せめて心だけでも送り届けようものを。
- 鑑賞
-
巻第十四 恋歌四 882
詞書「不言在所恋といへる心を詠み侍りける」
「在所を言はざる恋」、すなわち相手が居所を知らせてくれない恋の題で詠んだ歌である。逢ったところが変わらないならば、せめて心だけでも送ろうものを、と詠む。相手が住まいを移して行き先を知らせてくれないため、身はもちろん心さえも届ける先がないという嘆きを、反実仮想を用いて表している。
作者の「前中納言雅頼」は源雅頼である。村上源氏の出で、権中納言に至った。
初句「逢ふことの」は逢うことの、の意で、二句の「ありし所」にかかる。
二句「ありし所し」の「ありし」はかつてあった、の意で、「し」は強意の副助詞である。逢っていたその場所が、の意となる。
三句「変はらずは」の「ずは」は打消の仮定で、変わらなかったならば、の意である。四句、結句の「まし」と呼応する。
四句「心をだにも」の「だに」は最小限を示す副助詞で、せめて心だけでも、の意である。身は行けなくとも、という含みを持つ。
結句「やらましものを」の「やる」は送る、行かせる意で、「まし」は反実仮想の助動詞、「ものを」は逆接の詠嘆を表す終助詞である。送ろうものを、そのすべもない、と嘆いて結ぶ。
やる:送る、行かせる
- 作者
-
源雅頼
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
長らへて変はる心を見るよりも 逢ふに命を替へてましかば
- 次の歌
-
移り香に何染みにけん小夜衣 忘れぬつまとなりけるものを