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吹く風の誘ふものとは知りながら
散りぬる花のしひて恋しき

歌の意味
吹く風が誘って散らしていくものだとは知りながら、散ってしまった花が、むやみに恋しいことだ。
鑑賞
巻第三 春歌下 91

詞書「題しらず」
 花は吹く風に誘われて散るものと分かっていながら、散ってしまった花がむやみに恋しいと詠んだ歌である。道理では納得していても、心は花を惜しまずにいられない思いを表している。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「吹く風の」は、花を散らす風を示す。巻第二の第五十三首も「吹く風を」で始まり、花と風を取り合わせている。
 二句「誘ふものとは」は、風が花を誘って連れ去るものだとは、の意で、風を人のように見立てている。本巻の第八十八首が風を待たずに散る花を嘆いたのに対し、本歌は風に誘われて散る花を詠み、対をなしている。
 三句「知りながら」は、分かっていながら、の意で、逆接で下の句へつないでいる。
 四句「散りぬる花の」の「ぬる」は完了で、すでに散ってしまった花を示す。
 結句「しひて恋しき」の「しひて」は、むやみに、無理にも、の意である。連体形で言いさして余韻を残している。

さそふ:誘い出す、連れ去る
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
山高み霞を分けて散る花を 雪とやよその人は見るらん
次の歌
うちはへて春はさばかりのどけきを 花の心や何急ぐらん