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恋しきも思ひこめつつあるものを
人に知らるる涙何なり

歌の意味
恋しさも心の内に包み込んでいるというのに、人に知られてしまう涙とは、いったい何なのだ。
鑑賞
巻第十一 恋歌三 722

詞書「題しらず」
 恋しさも胸の内に秘めているのに、人に知られる涙とはいったい何なのか、と詠んだ歌である。思いは隠していても、こぼれる涙が恋を人に知らせてしまうことを、涙を責める形で嘆いている。
 前歌の第七百二十一首と同じく、隠そうとしても人に知られてしまう恋の涙を詠んでいる。
 作者の平中興は、平安時代前期の官人で、近江守などを務めた。

 初句「恋しきも」は、恋しさも、の意である。
 二句「思ひこめつつ」は、心の内に包み込みながら、の意で、「つつ」は継続を表す。
 三句「あるものを」は、いるのに、の意で、「ものを」は逆接の接続助詞である。
 四句「人に知らるる」は、人に知られてしまう、の意である。前歌の第七百二十一首で人にとがめられた袂の濡れと同じく、人に知られる涙をいう。
 結句「涙何なり」は、涙とは何なのだ、の意で、涙をなじる形で結んでいる。

おもひこむ:思いを心の内にしまい込む
作者
平中興
出典
後撰和歌集
前の歌
しののめに飽かで別れし袂をぞ 露や分けしと人はとがむる
次の歌
逢坂の木の下露に濡れしより 我が衣手は今もかわかず