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いつのまに恋しかるらん唐衣
濡れにし袖のひるまばかりに

歌の意味
いつの間にこんなに恋しくなったのだろう。涙に濡れた袖が乾くほどの、ほんの昼のあいだだけで。
鑑賞
巻第十一 恋歌三 729

詞書「人のもとより暁帰りて」
 いつの間にこれほど恋しくなったのか、濡れた袖が乾くほどの昼の間に、と詠んだ歌である。明け方に別れてからわずかな時しかたっていないのに、もう恋しくてならない思いを述べている。
 詞書によれば、恋人のもとから明け方に帰って詠んだ歌である。次歌の第七百三十首も同じ詞書を持ち、後朝の思いを詠んだ二首が並んでいる。
 作者の「閑院左大臣」は藤原冬嗣である。藤原内麻呂の子で、左大臣にまで昇った。閑院に邸があったことからこう呼ばれ、藤原北家の繁栄の基を築いた。

 初句「いつのまに」は、いつの間に、の意である。
 二句「恋しかるらん」は、恋しくなったのだろう、の意で、「らん」は原因を推量する。ここで句切れとなり、三句以下と倒置の関係にある。
 三句「唐衣」は、中国風の美しい衣で、四句の「袖」を導いている。
 四句「濡れにし袖の」は、涙に濡れた袖が、の意である。
 結句「ひるまばかりに」の「ひるま」は、袖が「干る間」と「昼間」を掛ける掛詞である。暁に別れてから昼までのわずかな時をいう。

からころも:中国風の美しい衣
ひるま:袖が乾く意の「干る間」と、「昼間」を掛ける
作者
藤原冬嗣
出典
後撰和歌集
前の歌
あひ見ても別るることのなかりせば かつがつ物は思はざらまし
次の歌
別れつるほども経なくに白波の 立ち帰りても見まくほしきか