夕されば寝に行く鴛のひとりして
妻恋ひすなる声の悲しさ
- 歌の意味
-
夕方になると、ねぐらへ帰って行くおしどりが、ひとりで妻を恋い慕って鳴いているらしい、その声の悲しいことよ。
- 鑑賞
-
巻第二十 慶賀歌 1400
詞書「相知りて侍りける女の身まかりにけるを、恋ひ侍りける間に、夜更けて鴛の鳴き侍りければ」
夕方になると寝に行くおしどりが、ひとりで妻を恋い慕う声の悲しさよ、と詠んだ歌である。親しくしていた女を亡くして恋い慕っている夜更けに、つがいで寄り添うはずのおしどりがひとり鳴く声を聞き、自分の身の上を重ねて悲しんでいる。
詞書によれば、親しくしていた女が亡くなり、恋い慕っていた間に、夜が更けておしどりが鳴いたので詠んだ歌である。なお本文の二句は「ねにゆくをしの」とあり、読み仮名の行の「ねになくをしの」と一致しない。ここでは本文の表記に従う。
作者の「閑院左大臣」は藤原冬嗣である。藤原内麻呂の子で、嵯峨天皇の信任を得て蔵人頭となり、左大臣に至った。閑院に住んだことから閑院左大臣と呼ばれ、藤原北家の繁栄の基を築いた。
初句「夕されば」は、夕方になると、の意である。
二句「寝に行く鴛の」は、ねぐらへ帰って行くおしどりの、の意である。おしどりは雌雄が仲むつまじい鳥とされる。
三句「ひとりして」は、ひとりきりで、の意で、相手を失った作者自身を重ねている。
四句「妻恋ひすなる」は、妻を恋い慕って鳴いているらしい、の意で、「なる」は声から推し量る推定を表す。
結句「声の悲しさ」は、声の悲しいことよ、の意で、体言止めとなっている。
をし:おしどり、雌雄が仲むつまじいとされる水鳥
ゆふさる:夕方になる
つまごひ:配偶者を恋い慕うこと
- 作者
-
藤原冬嗣
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
寝ぬ夢に昔の壁を見つるより うつつにものぞ悲しかりける
- 次の歌
-
女郎花枯れにし野辺に住む人は まづ咲く花をまたでとも見ず