故郷の佐保の川水今日もなほ
かくて逢ふ瀬はうれしかりけり
- 歌の意味
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古い都の佐保川の川水よ。今日もなお、こうして逢う瀬のあることはうれしいことだ。
- 鑑賞
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巻第十六 雑歌二 1181
詞書「春日にまうでける道に、佐保川のほとりに、初瀬より帰る女車のあひて侍りけるが、簾の開きたるよりはつかに見入れければ、あひ知りて侍りける女の、心ざし深く思ひかはしながら、憚る事侍りて、あひ離れて六、七年ばかりになり侍りにける女に侍りければ、かの車に言ひ入れ侍りける」
古い都の佐保川の川水よ、今日もなお、こうして逢う瀬のあるのはうれしい、と詠んだ歌である。思いがけず昔の恋人に行き合った喜びを、今も変わらず流れる佐保川の瀬に寄せて伝えている。
詞書によれば、春日神社に参詣する道で、佐保川のほとりにおいて初瀬から帰る女車と行き合い、開いた簾からわずかにのぞくと、かつて深く思い合いながら差し障りがあって別れ、六、七年ほどになる女であったので、その車に言い入れた歌である。
作者の「閑院左大臣」は藤原冬嗣である。藤原内麻呂の子で、左大臣に至り、閑院に住んだことからこう呼ばれた。藤原北家繁栄の基を築いた。
初句「故郷の」は、古い都の、の意で、奈良の旧都をいう。
二句「佐保の川水」は、佐保川の水よ、の意で、大和国の佐保川は奈良の都のそばを流れる川である。
三句「今日もなほ」は、今日もなお、の意で、昔と変わらず流れる川に、変わらぬ思いを重ねている。
四句「かくて逢ふ瀬は」は、こうして逢う瀬は、の意で、「瀬」は川の縁語で、逢う機会をいう。
結句「うれしかりけり」は、うれしいことだ、の意で、「けり」は詠嘆を表す。
あふせ:逢う機会。川の瀬に掛けて詠む
をんなぐるま:女性の乗る牛車
はつか:わずか。ほのか
- 作者
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藤原冬嗣
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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吹く風の下の塵にもあらなくに さも立ちやすき我がなき名かな
- 次の歌
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我が宿をいつならしてか楢の葉を ならし顔には折りにおこする