古典和歌stream

夏衣まだ一重なるうたた寝に
心して吹け秋の初風

歌の意味
まだ一重の夏衣のままでうたた寝をしているのだから、気をつけて吹いてくれ、秋の初風よ。
鑑賞
巻第三 秋歌 137

詞書「秋の初めに詠み侍りける」
 まだ一重の夏衣のままうたた寝をしている身を気づかい、秋の初風に、心して吹けと呼びかける歌である。季節の変わり目の肌寒さを、風への親しい呼びかけという形で表し、秋の巻の巻頭にふさわしく、身にしみる風によって秋の訪れをとらえている。詞書によれば、秋の初めに詠んだ歌である。
 作者の「安法法師」は、平安時代中期の僧、歌人である。源融の曾孫にあたり、出家して融の旧邸である河原院に住み、恵慶らの歌人と交わった。中古三十六歌仙に数えられる。

 初句「夏衣」は、夏に着る薄い衣をいう。巻第二の第七十九首が蝉の羽のような薄い衣で夏の巻を詠み起こしたのに対し、本巻はなお身にまとう夏衣から秋を詠み起こしており、夏と秋の巻頭が衣によって呼応している。
 二句「まだ一重なる」は、まだ一重のままである、の意で、秋になっても衣を重ねていないことをいう。
 三句「うたた寝に」は、うたた寝をしているところに、の意で、無防備な身を示す。
 四句「心して吹け」は、気をつけて吹け、の意で、命令の形で風に呼びかける。ここで句切れとなる。
 結句「秋の初風」は、秋になって初めて吹く風をいい、体言止めで呼びかけの相手を示す。本巻の巻末の第二百十四首が暮れてゆく秋を詠むのと、秋の始まりと終わりとして呼応している。

うたたね:寝るつもりもなく、ついうとうとと眠ること
はつかぜ:その季節になって初めて吹く風
作者
安法
出典
拾遺和歌集
前の歌
大荒木の森の下草茂りあひて 深くも夏のなりにけるかな
次の歌
秋は来ぬ竜田の山も見てしかな 時雨れぬ先に色や変はると