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秋立ちて幾日もあらねどこの寝ぬる
朝明の風は手本涼しも

歌の意味
秋になってまだ幾日もたたないのに、この寝て起きた明け方の風は、袂に涼しく感じられることだ。
鑑賞
巻第三 秋歌 141

詞書「題しらず」
 立秋からまだ日も浅いのに、寝覚めの明け方に吹く風が袂に涼しく感じられると詠む歌である。暦の上の秋を、身に触れる風の涼しさとして確かめている。
 作者の「安貴玉」は安貴王である。本文は「玉」と記すが「王」の誤りと見られる。志貴皇子の孫にあたる奈良時代の皇族で、万葉集に歌を残す。
 この歌は万葉集巻八に安貴王の歌として見え、そこでは結句を「手本寒しも」とする。

 初句「秋立ちて」は、立秋を迎えて、の意である。本巻の第百三十七首、第百三十九首に続き、秋の訪れを風によって感じ取る歌である。
 二句「幾日もあらねど」は、幾日もたたないのに、の意で、「ど」は逆接の接続助詞である。
 三句「この寝ぬる」は、この寝て過ごした、の意で、昨夜から今朝にかけてをいう。
 四句「朝明の風は」は、明け方に吹く風をいう。
 結句「手本涼しも」は、袂に涼しいことだ、の意で、「も」は詠嘆の終助詞である。巻頭の第百三十七首がうたた寝の身に秋の初風を気づかったのに対し、本歌は寝覚めの朝明けの風に涼しさを感じており、ともに寝床にある身で秋風を受け止めている。

あさけ:夜明け方。朝明け
たもと:着物の袖。袂
作者
安貴王
出典
拾遺和歌集
前の歌
八重葎茂れる宿の寂しきに 人こそ見えね秋は来にけり
次の歌
彦星の妻待つ宵の秋思に 我さへあやな人ぞ恋しき