忍ぶるも誰ゆゑならぬものなれば
今は何かは君に隔てむ
- 歌の意味
-
人目を忍んでいるのも、ほかの誰のためでもない、あなたゆえのことなのだから、今はどうしてあなたに隔てを置くことがあろうか。
- 鑑賞
-
巻第十一 恋歌一 624
詞書「女のもとにはじめてつかはしける」
人目を忍んでいるのも、ほかならぬあなたのためなのだから、今はどうしてあなたに隠し隔てをしようか、と詠む歌である。詞書から、女のもとに初めて贈った歌とわかる。これまで人に隠してきた思いはすべて相手ゆえのものだったと打ち明け、今こそ心を隔てずに伝えようとしている。前の第六百二十二首の「忍ぶれど」と同じく忍ぶ恋を詠むが、ここでは忍ぶ心を相手に明かすことに転じている。
作者の平公誠は、平安時代中期の官人、歌人で、詳しい経歴は伝わらない。
初句「忍ぶるも」は、人目を忍んでいるのも、の意で、第六百二十二首の初句「忍ぶれど」と同じ「忍ぶ」の語で始まっている。
二句「誰ゆゑならぬ」は、ほかの誰のためでもない、の意で、ほかならぬあなたのためであることをいう。
三句「ものなれば」は、ものであるから、の意で、「ば」は已然形について原因を表す。
四句「今は何かは」は、今はどうして、の意で、係助詞「かは」は反語を表し、結句の「む」の連体形で結ぶ係り結びである。
結句「君に隔てむ」は、あなたに隔てを置こうか、いや置きはしない、の意で、反語により心を包み隠さず伝える思いを示している。
へだつ:隔つ。間に物を置いて遠ざける、心を隔てる
- 作者
-
平公誠
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
色ならば移るばかりも染めてまし 思ふ心を知る人のなさ
- 次の歌
-
嘆きあまりつひに色にぞ出でぬべき 言はぬを人の知らばこそあらめ